エコ・クッキング食育

エコ・クッキングプロジェクト


新宿御苑発祥の野菜、トウガラシの物語

2011年01月up
新宿御苑のレストラン

大都会のオアシス的存在の新宿御苑を発信地とし、御苑ゆかりの野菜やハーブを使ったエコ・クッキングメニューをお届けする「GREEN♡ECOエコ・クッキングプロジェクト」。(財)国民公園協会新宿御苑と、エコ・クッキング推進委員会との協働プロジェクトです。2009年11から、御苑内のレストランとカフェでエコ・クッキングメニューを提供しはじめて取り組み2年目の、昨年(2010年)11月からは、新宿御苑発祥のトウガラシを使ったデザートメニュー「長ネギと唐辛子のケーキゆず風味」が登場しました。今回は、レシピ開発のテーマになった「内藤とうがらし」の由来と、新宿御苑で食べられるデザートになるまでの物語を、スローフード江戸東京の成田重行さん、大田原とうがらしの郷つくり推進協議会の吉岡博美さん、そして(財)国民公園協会の本荘さんにおうかがいします。


スローフード江戸東京の成田重行さんのお話をおうかがいします。


成田さん


編集部: 成田さんは「スローフード江戸東京」に属していらっしゃるとか。こちらはどういった団体なのですか?

成田さん:

成田重行さん

スローフード江戸東京は、生物多様性の保護や食育の必要性などを、生産者と消費者の交流を通して実現しようとしている団体です。おいしい、美しい、正しい食文化を目指しています。

編集部: その活動のひとつに、「内藤とうがらし」プロジェクトがあるのですね?

成田さん: そうです。8代将軍吉宗の頃、当時人口100万人を達成していた世界一の大都市「江戸」では、それぞれの大名の江戸下屋敷において、野菜を作らせていました。それらが現在、江戸伝統野菜と呼ばれるもので、そのなかに開幕前から関東を領地にしていた内藤藩が栽培していたトウガラシもありました。かつては、「新宿から大久保まで真っ赤な絨毯をしきつめたような光景」と言われるほど「内藤とうがらし」は定着していたようです。それがまさに新宿御苑のある場所です。現在は、この新宿御苑の地由来のトウガラシの原種を栽培しています。

編集部: わたしたちにとってトウガラシは、代表的な調味料のひとつ、という位置づけですが。

成田さん: ちょっと限定された存在ですよね。だからこそ、トウガラシをもっと「野菜」として広く定着させていきたいと考えています。乾燥させて、お蕎麦やさんのテーブルのはじに載っているだけではもったいない、とてもおいしい野菜なんです。事実、インドやメキシコ、韓国などの“トウガラシ先進国”では、トウガラシをスパイスとして使うだけでなく、野菜として、そして料理のダシをとるものとしても使っています。日本で栽培しやすい野菜ですから、国産国消の意味も込めてもっと食べていこう、というのがこのプロジェクトのはじまりです。

編集部: 新宿御苑の「GREEN♡ECOエコ・クッキングプロジェクト」とのつながりはどこからはじまりましたか?

成田さん:

成田さん

江戸では、現在よりももっと豊富なトウガラシの調理方法があったようです。葉も実も、乾かしたものも生のものも、赤い実も青い実も使いました。現代にもその歴史を生かした食べ方を取り入れようとしています。そういう取り組みの過程で、ここ新宿御苑のエコ・クッキングと出会いまして、御苑由来の野菜というとことで、内藤とうがらしを祖先に持つ、「栃木三鷹」というトウガラシを使っていただいた、という経緯です。

編集部: 「長ネギと唐辛子のケーキゆず風味」を試食されていかがでしたか?

成田さん: かつては甲州街道を通って、新宿御苑のあった場所にさまざまな野菜が運ばれてきました。そして、明治に入ってから、新宿御苑ではさまざまな野菜を改良し、再び全国へ還していったという歴史があります。新宿御苑でトウガラシを使ったデザートが食べられるという今回の企画も、かつてここで生まれた野菜のよさを再び発信していくという点で似ていますね。そういう意味で感動しています。また、さきほどトウガラシを料理のダシとして使う国も多いとお話しましたが、このケーキでも、トウガラシがいいダシになっていると思います。ユズや長ネギの味や香りのあとに、ふわっと感じるトウガラシのダシは、まるで味噌汁を飲んだあとに香るコンブのような印象。そういう点でもトウガラシの新しい食べ方のいいサンプルになるのではないかと思いました。

編集部: 成田さん、ありがとうございました。これからも、ぜひ「GREEN♡ECOエコ・クッキングプロジェクト」を応援していただけたらと思います。


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次は、大田原とうがらしの郷つくり推進協議会の吉岡博美さんにうかがいます。


編集部: 栃木県大田原市でトウガラシ作りに取り組んでいらっしゃるそうですが、その歴史を教えていただけますか?

吉岡さん:

吉岡さん

祖父がかつて東京の小金井におりまして、トウガラシを栽培して、甲州街道を通って新宿へ売りにきていました。昭和10年ころの話です。そのころ新宿に有名なカレー屋さんができまして、祖父はそのスパイシーな味わいに感動しまして、さらにトウガラシ栽培に熱心に取り組むようになりました。そして広い土地を求めて栃木へ越したわけですが、そのときの種が「八房」という系統の、いわゆる「内藤とうがらし」だったのです。その後、栃木で品種改良しまして、「栃木三鷹(さんたか)」という品種を作りだしました。

編集部: その後、トウガラシはどのような経緯をたどるのでしょうか。

吉岡さん: 昭和30年〜50年ごろにはトウガラシバブルとでも言いましょうか、国内で消費する量の4〜5倍のトウガラシをスリランカやアメリカへ輸出するようになりました。昭和52年以降は、栽培目的で栃木三鷹の種が中国へ輸出されるようになり、現在逆に中国から輸入されているトウガラシの半分はこの栃木三鷹の子孫たちです。しかし、農産物より工業製品で日本が勝負するようになってから、輸出は減っていきました。

編集部: せっかく大きく花開いたトウガラシ文化が、途絶えてしまったということでしょうか?

吉岡さん:

吉岡さん

そうです。かつてはトウガラシ農家にはトウガラシが残っていないといわれたほど生産・輸出がさかんでしたが、文化としても栃木からなくなってしまった。そこでもう一度、地元栃木でトウガラシを作り、町おこしをしていこうという動きがありました。それが6年ほど前から取り組んでいる、「とうがらしの郷 大田原」というプロジェクトです。

編集部: 具体的にはどのような活動をされていますか?

吉岡さん: そば屋さんやラーメン屋さん、お菓子屋さんなど、いろいろな店がトウガラシを上手に使ったメニューを考案して、パンフレットを作っています。そのメニュー開発の過程で、もともとトウガラシを扱っていました私が「大田原とうがらしの郷づくり推進協議会」のオブサーバーとして加わり、このように新宿御苑やスローフード江戸東京のみなさまと協働できるようになりました。トウガラシの産地として自信を持てるトウガラシ文化を育てていきたいと思っています。

編集部: 新宿御苑でトウガラシを使ったデザートを試食されてみていかがでしたか?

吉岡さん: うれしいですね。我々は大田原で細々と孤軍奮闘してきた、というような気持ちでおりましたので、ここ新宿御苑でみなさんと一緒に試食できて幸せです。トウガラシ仲間が増えた気がします。

編集部: トウガラシの風味を感じるケーキはめずらしいですよね。

吉岡さん: そうですね。いろいろな素材の味を感じられる仕上がりでした。これは余談ですが、「辛さ」というのは味覚ではないそうです。辛さは舌の神経のひとつ「痛覚」で感じる、つまり「痛み」なのだそうです。その痛みを緩和するために、脳が鎮痛剤のような成分を出すのだとか。それで、トウガラシをもっと食べたくなっちゃうという効果があるようです。みなさんにも「幸」という字に似た「辛」い幸せを、もっともっと味わっていただきたいと願っています。

編集部: 吉岡さん、ありがとうございました。ぜひ大田原にも足を運んでみたいと思います。


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さて、次は、(財)国民公園協会の本荘さんにお話をうかがいます。


編集部: どういった経緯でこのプロジェクトがはじまりましたか?

本荘さん:

本荘さん

かねてから新宿御苑ゆかりの食材を使ったメニュー展開をはかっていたところに、去年、江戸時代に新宿御苑の場所で栽培されていた「内藤とうがらし」と出会いました。地域振興の一環としてもとても魅力的でしたので、新宿御苑でも導入できないかと思い、伊藤シェフにレシピの開発を提案しました。

編集部: まず、東京産の野菜に目を向けられたきっかけは?

本荘さん: 去年の冬、インフォメーションセンターのアートギャラリーで、新宿御苑の歴史に関する企画展を開催しました。その際に昔の食材の歴史も探ってみようということで、昔から在来で栽培されていた野菜を調べてみたところ、新宿御苑発祥の野菜も多くありました。せっかくなので、内藤とうがらしの発祥の地で味わってもらえたら、この上ないPRになるな、と思いました。

編集部: 香辛料として知られるトウガラシが、スイーツになるという発想が面白いですよね。試食されていかがでしたか?

本荘さん: 意外な組み合わせで、あまり甘いものが得意でない方でも楽しめる仕上がりになっていると思いました。洋風でもあり和風でもありますね。トウガラシのこんな使い方があるんだ、と感心しました。

編集部: エコ・クッキングをレストランとカフェで提供するようになってから、感じられたことはありますか?

本荘さん:

本荘さん

新宿御苑はいわゆる、都会のなかのオアシス的な空間で、四季折々の花や自然が身近に楽しめるのが魅力のひとつです。そういう旬と同じように食材にも旬がありますよね。これまではいつも苑内の動植物の自然のサイクルを追っていますが、食卓にも自然のサイクルが展開されている、そうあってしかるべきだと気づきました。

編集部: 草木や花だけでなく、野菜や果物にも旬があり、わたしたちはその恩恵にあずかっているのですね。

本荘さん: そうだと思います。これからもたくさんの方に新宿御苑にお越しいただいて、食を通して、新宿御苑の自然の魅力や、歴史の面白さのようなものを感じていただけたらと思います。

編集部: 本荘さん、ありがとうございました。