日本版「味覚の一週間」

五感で味わう江戸エコ行楽重と日本酒

2012年度の大人を対象にした「味覚のアトリエ」は、「味覚の一週間」のテーマである「BENTO」をキーワードに実施しました。
花見弁当、芝居の幕間に食べる幕の内弁当など、行楽弁当が登場したのは江戸時代といわれています。そこで、弁当文化が発達した江戸時代の食文化と、行楽弁当に欠かせない日本酒をテーマにセミナーを行いました。

 

五感で味わう江戸エコ行楽重と日本酒講師は、食文化研究がご専門の東京家政学院大学名誉教授の江原絢子先生とイタリアのミラノで開催される国際見本市をはじめ海外への日本酒の普及にも努めていらっしゃる、きき酒師&フードコーディネーターの福留奈美先生です。
セミナーでは、まずはじめに食文化史の講義を行い、日本酒のテイスティング、江戸の料理書に登場する豆腐料理の調理実習、そして最後に、燗酒とともに「江戸エコ行楽重」をご試食いただきました。



講 義

タイトルは「江戸のエコ生活と弁当文化」。弁当文化が発展した背景にある食を取り巻く環境から、江戸時代に食されていた弁当について、当時の日記などの資料をもとにお話しくださいました。
「江戸時代は、農水産物の生産性が高まるとともに流通経路も拡大し、しだいに庶民でも多彩な食材を手に入れることができるようになりました。また、料理書が出版されるなど情報化が進み、食を楽しんだ時代と言えるでしょう」と江原先生。
そのような環境のなかで、江戸時代にはどのようなお弁当が食べられていたのでしょうか?
「日常のお弁当にはしいたけ、かんぴょうといった乾物と香の物が頻繁に登場します。肉食禁忌の影響もあり、日常食のタンパク源は豆腐など大豆製品が中心でした。ちょっとした遊びのお弁当になるとお楽しみの要素が加わり、卵焼きや魚料理などが入ってきます。料理書に載っている提重詰めの花見弁当は4段重ねに割籠もつき、食材も卵、魚、旬の野菜、乾物などたいへん多彩になります」
江戸時代の弁当といえば、落語の「墨田(長屋)の花見」が有名ですが、そのなかに登場するたくあんは、実は、江戸の循環型生活と密接につながっているとのこと。
「江戸時代は、食材を無駄なく最後まで使い尽くす合理的な生活が営まれていました。江戸時代には盛んに精米が行われるようになり、糠がたくさん出ましたが、この糠を再利用したのがたくあんです。たくあんは、上流下流の身分も、ハレの日、ケの日の区別もなく日常に広く普及しました」
講義では、先生が所蔵されている1800年代の貴重な料理書もご紹介くださり、参加者は、実際に当時の料理書に触れる貴重な体験もできました。
講義


日本酒セミナー

日本酒のラベルの解説と表示内容から読み取れる日本酒の特徴に関するお話の後、3種類の日本酒のテイスティングを行いました。
日本酒のラベルの表示ついては、純米酒、吟醸酒などの特定名称、原料米、精米歩合、アルコール度数、日本酒度について解説くださいました。
テイスティングに際しては、「まず、色を見て、においをかいでみてください。感じたこと、イメージしたこと、こんな料理に合うかなど、思ったことを自由に書いてください。言葉に置き換えることで、後から言葉を介してにおいや味を思い出すことができます」と福留先生。
参加者は、特別純米酒「忍者」とスローフードジャパン燗酒コンテスト2012で最高金賞を受賞した2銘柄「燗上がり純米酒 天寿」「特別純米 龍力生?仕込み」の3種類についてテイスティングを行いました。
日本酒セミナー

 

日本酒セミナー江戸時代といえば、冷酒ではなく日本酒はもっぱら燗酒として飲まれていました。そこで、家庭でできるおいしい燗酒の作り方も教えていただきました。
「とっくりに入れたお酒とほぼ同じ高さまで鍋に水をはって沸かし、温度を測りながら温めます。お猪口に入れると3〜4℃下がることを考慮し、40〜45℃に温めてください」と福留先生。
テイスティング時は常温で試飲した日本酒を燗酒にし、温度によって味わいがどのように変化するかについてもご体験いただきました。


江戸の豆腐料理「すり流し豆腐」の調理実習

江戸の豆腐料理「すり流し豆腐」の調理実習豆腐は、江戸時代の重要なタンパク源で、工夫を凝らした様々な調理法が生まれました。今回は、その中から「すり流し豆腐」を実習いただきました。「すり流し豆腐」は、豆腐だけで作る味噌味の汁物です。
「すり流し豆腐は、江戸時代の『豆腐百珍』に紹介されています。江戸の料理本は材料だけが記載されていて、分量などは自由にアレンジするようになっていました。今日のレシピは、江戸時代の料理書を参考に作成したものです」と江原先生。
吸い口に辛子が使われていますが、江戸時代の料理は、香味野菜や香辛料を組み合わせて、おいしさを工夫していたというのも特徴のひとつです。

 


「江戸エコ行楽重」の試食

「江戸エコ行楽重」は、江戸時代の料理法に東京ガスが推奨するエコ・クッキングのアイデアを取り入れたお弁当です。江原先生の監修のもと、楠公レストハウス(財団法人国民公園協会 皇居外苑)とエコ・クッキング推進委員会が協力して作りました。
「現代の食材を使いながら江戸時代の調理法が再現できるよう献立を考えました。江戸時代は甘味をつけない料理が多かったようですが、かえって食材のおいしさが引き立ったようです。また、江戸時代は、こおり(玲瓏:玉などが透き通っている意味)豆腐のように見立ての料理も多く、名称もおしゃれでした」と江原先生。

 

参加者からは、「すり流し豆腐は、作り方は簡単だが、味わい深い。白みそ以外でも試してみたい」「身近な食材ばかりだったが、調理法が珍しく新鮮だった」「日本酒が温度によってまったく味わいが違うのに驚いた」といった、感想が聞かれました。
日本酒とともに江戸時代の食に思いをはせながら、楽しんでいただけたようです。
「江戸エコ行楽重」の試食