2017年度シンポジウム

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「環境に優しい食育協議会」シンポジウムを開催しました

東京ガスと環境に優しい食育協議会は、7月31日、丸ビルホールにて、農林水産省・環境省・文部科学省にご後援いただき、シンポジウムを開催しました。
テーマは「これからの時代の食育」。

東京ガスが食育活動を開始した1992年以降、食を取り巻く環境は大きく変化しました。
25周年の節目となる本年度のシンポジウムでは、この先もずっと時代に即した食育活動が展開できるよう、これからの食育のあり方、取り組み方についてご講演いただきました。

「環境に優しい食育協議会」シンポジウムを開催しました

ごあいさつ

服部 幸應 氏 (環境に優しい食育協議会 委員長)

東京ガスでは食育基本法が制定される前から食育に取り組んでいます。子どもたちを“育てる”食育に共感しています。

食育は英語にすると「イーティング・エデュケーション」。食べ方の教育で、3つの柱からなっています。1つめが安心・安全・健康なものを選ぶ力、2つめが家庭の食卓で行われる食のしつけ、3つめが食料問題、環境問題を考える、です。
日本の食料自給率の低さは大きな問題ですが、世界的にも関心が高まっているのが食料廃棄です。3年後には東京オリンピック・パラリンピックがあります。外国の方々に安心・安全なおいしい食を提供するとともに食料の無駄を出さないことも意識しなければなりません。

今日は脳科学、2020年に向けた食育、教育現場の視点からお話しいただきます。食育というものの真髄を知っていただけるのではないかと思います。

服部幸應氏(環境に優しい食育協議会 委員長) 服部氏(学校法人服部学園理事長・校長)によるごあいさつ。

第1部 基調講演

「脳と食 ~AI時代に人が大切にすべきこと~」

茂木 健一郎 氏 (脳科学者)

これから迎えるAI(人工知能)時代における食育の意義や脳科学の分野から食育をどのように捉えるかについてお話しいただきました。

人間の定義にはいろいろありますが、「料理をする人」、これが大事だと思います。野生動物は自然界にあるものを食べるだけですが、人間は食材を組み合わせて加熱し料理にします。おいしいと感じると脳の報酬系が働いてドーパミンが出ますが、おいしさは深くて説明はできません。インスタグラムに料理写真を載せることはできても、おいしさ自体を撮ることは不可能です。おいしさは実際に味わうしかありません。

ご自身の食の体験を交えながら食育について語る茂木氏。 ご自身の食の体験を交えながら食育について語る茂木氏。

食育はAI時代に花開く

これからは、データベース化できる知識はAIに任せる時代になり、いわゆる学力と呼ばれているものは意味がなくなります。脳にとって大事なのは知識ではなく、課題に対してどう創意工夫しながらアプローチし、協力して解決するかといったプロセスです。たとえば「オムレツはどうしたらふっくら焼けるか」という課題について学習したことが、全く違うことにも応用できるとき、本当の宝物を得たと脳科学者は考えます。
今後、学校教育の中心がアクティブラーニングや探求学習になったとき、食育は大きく花開くでしょう。

脳科学からみた食育の効果

食育では共食の大切さがいわれていますが、実は一緒に食べることでおいしさが増します。脳には「ミラーニューロン」といって相手と自分を鏡のように映し合う神経細胞があり、相手がおいしいと思って食べると自分のおいしさも2倍、3倍になるからです。また、最近「マインドフルネス」という概念が注目されています。“今ここで起きていることに意識を向ける”ことで、禅の瞑想からきています。料理を味わうことはまさにマインドフルネス。それができる子どもたちは創造的にも、また幸せにもなれるというのが脳科学の考え方です。マインドフルネスにおいても食育は大事な武器になると思います。

第2部 講演

講演1 「2020年に向けた食育の取組への期待」

勝野 美江 氏 (内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部事務局参事官)

日本の食文化発信の絶好の機会となる東京オリンピック・パラリンピック。
それに向け、食育の果たせる役割についてお話しいただきました。
平成17年の食育基本法制定時に食育を担当していた勝野氏。 平成17年の食育基本法制定時に食育を担当していた勝野氏。

食育基本法制定後の12年の間に、貧困状況の子どもや高齢者に対する食育が新たに加わりました。また、「食生活指針」は和食のユネスコ無形文化遺産への登録や食料・環境問題を反映した内容に改訂されました。視点を変えて社会構造に目を向けると、訪日外国人の数や農産物の輸出額が増加し、日本の国際化が非常に進んでいます。

東京オリンピック・パラリンピックの基本方針において、日本の食文化の世界への発信が位置づけられています。国では「beyond 2020プログラム」認証制度をつくり、言語や障害を越えた文化交流を奨励しています。たとえば、ホストタウン※での事前合宿や大会後交流での食の体験、特別支援学校の子どもたちと相手国の関係者とが一緒に行う調理実習など、生かせる食育の取組はたくさん考えられます。みなさまにもご協力いただき、より多くの日本人が「私たちの力で成功した」と言えるような大会にしたいと思っています。
※ホストタウン:2020年の大会参加国との人的・経済的・文化的な相互交流を図る自治体のこと。自治体ごとに国が特定される。

講演2 「味覚教育を取り入れた家庭科の学習」

佐藤 雅子 氏 (成田市立公津の杜小学校主幹教諭)

フランスのジャック・ピュイゼ氏が提唱する味覚教育。味覚教育の本質と授業への活用で期待できることについてお話しいただきました。
味覚教室など授業以外の活動にも取り組む佐藤氏。 味覚教室など授業以外の活動にも取り組む佐藤氏。

人は食べものを味わうことで食べものからの“語り”を聞くことができます。その語りを受け取るときに使うのが五感であり、五感を使って味わうことを学ぶのが味覚教育です。味覚教育により、自分のことや自分と相手が違うことがわかり、他へ関心を持つ力が育つといわれています。この力を使ってよりよい生活を創っていくのが味覚教育の目ざすところです。五感を使って味わうことはゴールではなく、あくまでも手段です。

家庭科の食の学びの最初に五感を使った味覚体験を位置づけ、その後の調理学習につなげています。たとえば、ゆで方の違うほうれん草を食べ比べ、自分の感覚でとらえたおいしい硬さから調理目標を設定し、一人調理を行います。こういった五感を活用した体験の積み重ねは、自分の人生を自分で決定する力になっていくと思います。新学習指導要領でいわれている「どのように社会・世界とかかわり、よりよい人生を送るか」に直結するのではないでしょうか。

東京ガスの食育活動25年の歩み

食育活動を開始した当時はライフスタイルの多様化とともに食の外部化・簡便化が進み、食に関する知識の不足など、子どもたちの食の問題が山積していました。これらの問題解決に少しでも貢献しようと子ども料理教室「キッズ イン ザ キッチン」を始めました。95年には「エコ・クッキング」を開始し、現在は「環境に配慮した食の取り組み」として、持続可能な社会の発展にも貢献できるよう活動しています。

食育の歩みを説明する東京ガス「食」情報センターの工藤。 食育の歩みを説明する東京ガス「食」情報センターの工藤。

東京ガスの主な食育活動

1992
・キッズ イン ザ キッチン 第1回子ども料理教室開始
・NHKと協力し、ミュージカルの上演、ビデオ制作
1995
・「エコ・クッキング」開始
1998
・キッズ イン ザ キッチン 親子料理教室開始
1999
・第1回「食育ファミリーキャンプ」開催
2002
・「エコ・クッキング」出張授業開始
2003
・食育補助教材テキスト作成
・キッズ イン ザ キッチン 第1回「三國シェフの特別授業」開催
2004
・キッズ イン ザ キッチン 第1回味覚体験コース開催
2005
・農林水産省提唱「ニッポン食育フェア」出展
2007
・「エコ・クッキング推進委員会」設立
・食育がキッズデザイン賞受賞
・ウィズガス全国親子クッキングコンテスト開始
・紙芝居形式食育教材作成
2010
・「東京ガス食育クラブ」発足
2011
・日本版「味覚の一週間」参画
・『いっしょにおうちクッキング』出版
2014
・「環境に優しい食育協議会」発足
・食育補助教材ワークブック作成
2015
・『ガスの炎でおいしい楽エコごはん』出版
2016
・食育補助教材DVD制作
2017
・東京ガス食育活動25周年

記事は各講演の内容を一部抜粋してまとめたものです。

※「キッズ イン ザ キッチン」と「エコ・クッキング」は東京ガス株式会社の登録商標です。

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